ライヴハウスでしのぎを削る若手バンドに焦点を当てたイベント「Ruby Tuesday」。7回目の開催となったこの日も出演アーティストそれぞれの「今の声」が鳴り渡った。平日19時、大人の欲望が渦巻く眠らない街・新宿の真ん中でも、地下のライヴハウスならば、彼らの声が雑踏に掻き消されることはない。むしろその声は、新宿LOFTに集まった多くの人々にかけがえのない傷跡を残していく。(Photo:板橋淳一)
トップバッターを務めたのはpolly。越雲龍馬(Vo/Gt)の柔らかな歌声を中心に広がるのは温かくもどこか苦い後味を残すバンドのサウンド。耳馴染みの良いメロディに乗せて歌われるのは、斜め下に視線を落としたときの心の揺らぎ。彼らの音が持つ美しさ、儚さ、それらと紙一重の危うさに惹きつけられて、食い入るようにステージを見つめるオーディエンスである。MCでは満員のフロアを見て「全校集会みたいだ」と率直な感想を述べる越雲。「新宿はとても嫌いです。臭いし、ギラギラしてるし」と語る彼らの音が持つこのヒリヒリとした感触は、誰もが一度は抱く「大人」になることへの抵抗心とリンクするものがある。中盤では新曲「Tr ä umerei」を演奏。「消せない」「愛せない」など否定形の言葉を繰り返すことによって生まれるリズムと、アンサンブルの余白と余韻で魅せるこの曲、これから先のバンドの可能性を感じさせてくれるような新鮮な響きにワクワクした。そしてラストは終盤に近づくにつれて熱を帯びていくバンドの音と、穏やかに伸びていく歌声のコントラストに心奪われる「hello goodbye」。真っ白な照明の眩しさが目の奥に焼きついた。
メインステージの転換中、BARステージに現れたのはボブカットの鍵盤女子・ヒロネちゃん。このBARステージ、出演者のグッズを売る物販がすぐ近くにあるのだが、人のざわめきが適度に混ざったこの感じ、何だか路上ライヴに似ている。ヒロネちゃんは、話しているときと同じように自然な息の流れの中で、しかし演劇のように感情の起伏を声の抑揚で表しながら歌う人。「宇宙」を彷彿させる言葉を歌詞で多く用いながらも、自分の半径1メートル以内で起こる個人的な出来事と想いを歌っている人。砂糖菓子のように甘い声なのに「きみの死因になりたいな」なんて歌ってしまう人。——女の子の内側にある「矛盾」ってなぜこんなにも魅力的なんだろうか、とぼんやり考えながら彼女の弾き語りを観ていた。1st setの40分後に行われた2nd setでは、11月に『あなたのep』をリリースすることを発表。「最近いろいろなことがあって嫌なこともあったけど、弾き語りを初めてから生きるの楽しくなりました。良い人にも出会えました」と語ったあと、鳥取の恩師の失恋に宛てた曲だという「さよならモンスター」で彼女のステージは幕を閉じた。
メインステージに戻り、続いてはLILI LIMIT。5人とも全身真っ白な衣装だ。アーティスト写真や音源から彼らに対して「スタイリッシュでオシャレな音楽をやっているバンド」というイメージが先行している人も多いかもしれないが、そういう人はライヴを見てみると驚くかもしれない。汗を光らせながら「新宿ー!今日は最後の最後まで#@★&*!!」とこちらから聞き取れないほどの勢いで叫び、MC中には「お水いただきます」と2リットルペットボトルの水をガブ飲みする牧野純平(Vo)をはじめ、前方のメンバーはステージギリギリまで何度も何度も出てくる。そして何よりも「多くの人を自分たちの音楽のなかに巻き込んでいきたい」という気概が5人の音のなかに漲っていたことこそが、この日のライヴがいつになくアグレッシヴに感じられた最大の要因だろう。まるで自己紹介のように各メンバーが見せ場を持つセットリストが進んでいくなか、6曲目には新曲「festa」を披露。「みんなで口ずさめる曲なのでよかったら」と言っていたように、1回聴けばすぐに覚えられそうなほどキャッチーなこの曲。スカッと視界が開けていくようなサビの爽快さが印象に残った。
BARステージでのヒロネちゃんによる2度目の弾き語りを経て、メインステージはいよいよこの日のトリ・My Hair is Badのアクトへ。登場早々、椎木知仁(Gt/Vo)による弾き語りで始まった「ドラマみたいだ」にグッと引き込まれる。まるで感情の洪水みたいに、人間の綺麗な部分も汚い部分も溢れ出させる3ピースのバンドサウンド。聴き手を「独り」に還していくような力を持つ椎木の弾き語り。バンドと弾き語りを交互に行き来しながら進んでいく構成が、聴き手の目と耳と心を掴んでは離さない。「20代になっていろいろなことがあるけど、上手くいってたヤツはフリーターになって俺はずっとバンドやってて、でも『10年後にどうしたい』なんてことはクソどうでもいい。今は今しかないと思ってます」「雑誌の中でもなく、夏フェスの中でもなく、テレビの中でもなく、ライヴハウスで戦っているバンドが一番カッコいいんでよろしくお願いします」——鋭い目つきをしながら、二度と訪れない「今」をひたすらに刻みつけるその切迫さに射抜かれた人はたくさんいたはず。1曲1曲が終わるごとにフロアにはざわめきにも似た歓声が起こっていた。
polly
1. ナイトダイビング
2. アンハッピーエンド
3. Loneliness
4. Tr ä umerei
5. ボクの為だけのワルツ
6. アマツブニアカ
7. 雨の魔法が解けるまで
8. hello goodbye
ヒロネちゃん
<1st set>
1. ブルーベリーシガレット
2. 最後の地球
3. あなたの宇宙、わたしの鬱。
4. ピンポンダッシュ
5. 恐竜のうた
6. カロリーメイト
<2nd set>
1. 目隠し
2. 片道切符
3. さみしいキャラメル
4. ほうき星
5. さよならモンスター
LILI LIMIT
1. h.e.w
2. Girls like Chagall
3. Tokyo city club
4. in yours site
5. zine line
6. festa
7. at good mountain
My Hair is Bad
1. ドラマみたいだ
2. 愛ゆえに
3. 悪い癖
4. アフターアワー
5. クリサンセマム
6. 元彼氏として
7. フロムナウオン
8. 真赤
9. 優しさの行方
EN. エゴイスト
日程:2015/10/06(火) Open 18:00 / Start 19:00
会場:新宿 LOFT
出演:My Hair is Bad / polly / LILI LIMIT
BAR STAGE ACT:ヒロネちゃん
Ruby Tuesday Official HP
http://www.red-hot.ne.jp/dice/ruby/vol7.php